調査実習2000第7回
~文献研究~
Time Table
時間 |
内容 |
13:15 |
・「ライフヒストリー研究入門」(L.L.ラングネス G.フランク 著, 米山俊直 小林多寿子 訳, 1993)
伝記的な手法の利用は、様々な学問にとって貴重な共通性があり、いわば公分母である
ex)・歴史学 ・歴史心理学 ・伝記文学 ・社会学 ・心理学 ・医学 ・人類学
1908年、人類学者によって始めてアメリカインディアンの最初の個人的な物語がまとめられる 人類学におけるライフヒストリー法の利用は1920年代から。
1945までのライフヒストリーデータは大量にあっても表面的、不均等、基準その他諸々でほとんど使えない(クラックホーン)
初期のライフヒストリーには分析が欠落していた
人類学者は他の学問の図式を自分のライフヒストリーの素材にあてはめようとしないでいた
ライフヒストリーを構成することは共同製作的行為である
理性と共感(聞き手自身の個人的な相手を理解する資質)が不可欠
ライフヒストリーはフィールドワークの一部
(ライフヒストリーはインタビュー素材によって人類学者がつくることもあるが、フィールドワークの文脈そのものから誕生することのほうがはるかにおおい)
人類学者は「行動」だけでなく「行為」にもかかわるべき
ライフヒストリーにおける方法と技術
・ラポール(親和関係) ・言語 ・インタビューすること ・信頼性とサンプリング
・補助的データ ・ノートをとることと記録すること ・パーソナリティー
誕生と死以外のことは個人の選択と文化の意図することがらである
人生の意味は個人の文化における死の意味を考えることで理解できる
人類学的なライフヒストリーは生きている人間そのものを研究すること
ドキュメントが研究対象者に影響を及ぼす
インフォーマントの側の「このように扱ってほしい」という意見
インフォーマントのプライバシーや評判を守るという倫理的問題
→だが、調査対象者の個性こそが詳しい考察の対象になる
インフォーマントは匿名でいる権利を持つ/実名を望むインフォーマントも多くいる
「プライバシーの権利は、うまく記録描写されたデータにたいする科学の主張に優先するものでなければならない」
民族誌的データは秘密のうちに得られるべきではなく、また、たとえどんなに害を及ぼす可能性が少なくても、調査対象者の同意なしに公表されるべきではない
ある情報を公開することについてのインフォーマントの同意は、その課程で明らかになったほかの種類のデータを公表することを許可したものではない
参与観察について。いつ、いかに介入すべきか
生活を書くという仕事をとおして、私たち自身が人間らしくなることができる |
13:50 |
・「フィールドワークの経験」(好井 裕明 桜井 厚, 2000)
- 「啓発する言説構築」から「例証するフィールドワーク」へ
啓発言説の構築について,今見直してみると、当時の私は、<啓発するちから>に呪縛されていた。これに呪縛されているとき、現実に影響を与えることができない。今は、現実に通用するものとして「例証するフィールドワーク」の可能性を考えている。
- 「社会問題」という経験
Aにとって自明のことにBは違和感を抱き、それを軽減しようとすると、Aが違和感を抱いて反発するという構造を持つという人間関係がある。日常の関係は 「波風をたてる」ことをさけようとするので、Bは理解してもらえないと実感することが多い。しかし違和感を語るには、「理解」することによって「波風」を 立てないことよりも「波風」に強くなることの方が必要だ。
- モニターのこちら側のフィールドワーク
会話の分析作業では、作業で得られた考察を、現実に当てはめて再考することで一巡するものと、資料の他の場面に当てはめて妥当性を考えることで一巡する もの、の二つのサイクルを視野に入れなくてはならない。この二つのサイクルは一方を一巡することでもう片方をよりよく一巡できるような関係にある。
- 「呆けゆく」人のかたわら(床)に臨む
私たちは、「呆け」ている人は何もわからないのだから何をしても構わないと言う痴呆観を持っている。しかし、フィールドワークによって「呆けゆく」人も「呆けゆく」ことを苦しんでいることがわかった。
- 看護婦が病院でフィールドワークするということ
看護者が病院でフィールドワークすると、患者側の苦情を知るが、看護者側の事情もわかっているので皆葛藤に陥る。
- あなたがセックス・ケアをしない理由
性的な行為は恋愛感情を前提としなければならないという信念がある以上、現場での性的なケアはますます敬遠されていくことになるだろう。
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14:30 |
(調査実習ホームページに関する話し合い) |
15:10 |
<休憩> |
15:30 |
中野卓先生を招いての質問会 |
17:30 |
<終了> |
~実地調査~
時間 |
内容 |
15:32 |
中野卓先生のお話と質疑応答
・ライフヒストリーを始めたきっかけ -- 倉敷でのおばあさんとの出会い
・社会学を始めたのは、実家が京都の商人で、家制度に興味があったから
・有賀喜左之門との出会い(農村研究)
・府中市史のライフヒストリー研究
・トカラ諸島のおじいさんのライフヒストリー研究(物理学の話、精神病話)
・ハワイの日系1世のライフヒストリー研究
・インタビューのコツ
尋問的にならないようにする、生年月日を必ず聞く |
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・先生のライフヒストリー
大正9年(1920年)生まれ
小学校の頃満州事変 以後戦争へ
中学生の頃から毎日日記を書き、後にそれが本化される
昭和18年学徒出陣 終戦後大学院生になる(新制大学化)
東京教育大学に教員として就職 後千葉へ
戦争前後で日本の社会学が変わり量的調査に編重されていった
学会で研究報告、後に生活史研究会を設立
戦争でのエピソード
・東大に入学した頃、米軍の飛行機が空を飛んでいるのを見て、「日本の海軍は
ダメだな。日本は負けるな。」と思った。
・自分が出陣する際に行く意義がわからなかった。
・戦地で疲れた中年兵達を見て「自分の目的はこの人たちや自分の部下たちを
生かして連れ帰る事だ。」と思い、そのために上官に嘘をつき命令にうまく
逆らった。 |
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・ライフヒストリーの客観性について
ライフヒストリーは客観性がないので学問ではないとよくいわれるが、客観的な
ものなどない。目的があれば必ず主観は入るものなのだ。(歴史にも主観は入っている。)
ライフヒストリー=ライフストーリー(二重に主観的) |
Field Notes
- 中野先生をお招きして、今までは文献紹介などでライフヒストリーについて書かれたことなどを知ることはあったが、今回は、ライフヒストリーをじか に感じることができた。面白かった。話があちこちに飛んでしまうこともあったが、みんな興味深いもので、これからの実習が楽しみになった。早く調査に行き たい。
- 今回からホームページに載るかもしれないので、ちゃんとしたことを書こうかなぁと思うものの、何も思いつかない自分 が空しい。今日は中野先生からお話を聞くことができて面白かった。興味を色々なところに持ち、好奇心旺盛だと80歳でもあんなに元気でいられるのだろう か。これから調査実習を始める上で色々な問題が起こってくるだろうから、その中でまた話を聞く機会が得られればいいなぁと思う。
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